The After Party

ライブの打ち上げに、こっそり同席する感覚。ミュージシャンの本音が聞こえる特等席へ、ようこそ。

アンナ・マレェ | 第3話:愛してるよ、とセッション

2026年3月25日 • アンナ・マレェ

さとレックス(以下さとレ): ちょっと唐突な話なんですけど、アンナさんにお礼を言いたいことがあって。ライブのMCで「愛してるよ」って言うようになってくれたじゃないですか。

アンナ・マレェ(以下アンナ): そうなんです。

さとレ: 昔のポッドキャストで話したことがあって——「お前死ね」みたいなことは気軽に言えるのに、「愛してるよ」と気軽に言い合う方が恥ずかしいっていうのはおかしくないか、もっと言っていこうよ、と。今でもポッドキャストの締めは「愛してるよ」で締めているんですけど、それがアンナさんに伝わって、MCで言ってくれるようになったとしたら、ちょっとだけ世界を変えられたんじゃないかなと思って。すごく誇らしくて。

アンナ: 90EASTの月一のYouTube番組で、小川周二さんとさとレックスさんがゲストで来られた回に、「意識的に愛してるという言葉を言うようにしていた時期があった」とおっしゃっていて。それがすごく心に残っていたんです。勝手にお借りする形になってしまったんですが、MCの最後に言うようになりました。

最初は「わけのわからない世界でも、それでも愛してるって無理やり叫ぶぜ!」みたいな感じだったんですけど、言っているうちに変わってきて。最近はもう、本当に愛しいなって自然に言えるようになってきた気がします。言葉が心持ちを変えるって、本当にあるんですね。

さとレ: こちらこそお礼を言いたいです。


さとレ: 「愛してるよ」が言いにくいのはなんでだろうと考えると、

むき出しすぎるからかなと思っていて。恋人同士の限定された関係の中で囁くのは似つかわしいけど、普段から誰かれなく言うのは恥ずかしい。だから耳かき一杯分の愛情を別の言葉に入れて出す、みたいなことが必要で。

アンナ: 耳かき一杯、いいですね。

さとレ: 佐賀にいとこがいて、「じゃあ行ってくるね」と言うと「用心していけよ」と何度も言ってくれて。「用心していけよ」って、なんか愛おしい言葉だなと思って。

アンナ: すごくわかります。SNSで見た投稿で、「東アジア文化圏でハグの代わりになるものって何だろう」という話があって——「もっと食べていきなよ」とか「風邪ひかないでね」じゃないか、というものがずっと残っていて。今の話を聞いて思い出しました。それが愛なんだろうなって。

さとレ: 自分が恥ずかしいからしまっておいたもので他の人が寂しい思いをするよりは、「またこの人恥ずかしいこと言ってる」と思われても愛してるよって言いに行く方がずっといい、と思っているんです。

アンナ: 後悔するよりはって、私もそう思います。伝わらないで終わってしまうよりは、伝えた方がいいかもなって。

さとレ: 誰かのライブを見て、良かったと思ったら、できるだけそう伝えたいんですよね。良かったって言われないまま、寂しくなってやめてしまうのはもったいないから。それも愛情のうちじゃないかと思って。この世界はあなたの味方だよ、というメッセージを届けたいっていう気持ちがあります。

アンナ: そうですよね。絶対そこにこもっていますよね。


さとレ: 楽器持ってきたし、せっかくだからセッションしますか?

アンナ: やりましょう!

さとレ: ライブの打ち上げで飲むお酒が、世の中のお酒で一番美味しいと思うんですよ。

アンナ: お酒は飲まないですけど、ライブの後のご飯はめちゃくちゃ美味しいです(笑)。

さとレ: でしょう。熱狂の中で全力を出し合って、バイブスがぶち上がってからの一杯は半端じゃないんですよ。まあそれも、さっきの「愛情の出し方」と同じで、その場で一緒に何かをやった人間同士にしか共有できないものがあって。


(AURORAの「Earthly Delights」をセッション。アンナが歌詞を確認しながら、さとレがその場で合わせる。)


アンナ: 今度は私のオリジナル曲で、「飛」という曲をやってみたいです。「飛ぶ」という字を書いて「ひ」と読むんですが。よろしくお願いします。


(「飛」を演奏)


アンナ: やっとできました。嬉しい!

さとレ: 演奏しながら曲の世界が浮かんできて。夏の青空と緑の木、青い匂いのする風が吹き渡ってくる景色の中で、淡い恋心とその残像について一人語りしている歌だと思って聴いていました。

アンナ: 嬉しいです。めっちゃ嬉しい。歌には歌詞があるけど、伴奏がその世界を代弁してくれると広がるというか——広がりましたよね。

さとレ: 途中のソロはやりすぎると台無しになるかな、とバランスを考えていました(笑)。


(アイルランドの伝統曲「Siuil a Run」をセッション)


さとレ: これ、反英歌といいますか。アイルランドがイギリスの侵略に抵抗する意味を込めた歌が伝統音楽として受け継がれていて、この曲にも少なからずそういう意味が込められているという話を聞いたことがあります。恋人が戦争に行って、案じる歌ですよね。

アンナ: だから反戦歌にも通じるのかなと、私も思います。思い出して歌えてよかったです。

さとレ: 僕は中3ぐらいでベースを始めて、当時ランパとかザバダック、エンヤとかをよく聴いていたんです。今のアンナさんの世界に近いものがあって、すごく好きだったので、一緒に演奏できてよかったです。

アンナ: 嬉しいです。私も自然の美しさが見えてくる音楽が大好きで。さとレックスさんが曲を聴いていて景色が浮かんでくるとおっしゃっていましたが、なんかわかる気がします。そういう音世界を作りたい気持ちがあるんだろうなって、前から感じていました。

さとレ: 風景画みたいな曲を作りたいという欲求がずっとあるんですよ。アンナさんの曲を演奏しながら、その気持ちに近いことができた気がして、良かったです。


さとレ: というわけで、ウェブマガジン「The After Party」記念すべき第1回ゲストに、アンナ・マレェさんをお迎えしました。ここまでの感想を聞かせていただけますか?

アンナ: 本当にあっという間でした。普段なかなかできないような深い話をすることができて、すごく楽しかったです。深いところを掘り下げていく楽しさがあって、途中にはセッションタイムもあって、その場で生まれた反応を楽しむ時間もあって。本当にありがとうございました。

さとレ: こちらこそ。普段できない話ができて嬉しかったです。またセッションしましょう。

アンナ: ぜひよろしくお願いします。愛してるよ。


(了)